Terror値

本年度卒業する学生の中間発表を来週に控えているため,プロジェクトの4回生とつきっきりで話をした.4回生が相手だと話をいろんな方向へ広げるのも収束させるのもこちらの役目となる.そして先方の役目は僕によい質問をしてくれることである.今日の話はそこそこ上手く回った.

話し方としては,こちらの世界へもてなさなくてはならない部分と,厳しく言い含めなくてはならない部分とがある.4回生を相手にするときは前者が大きくて,博士の学生を相手にするときは圧倒的に後者寄りとなる.それにしても研究室に何年住んでいるのだか判らない牢名主のような奴のいうことはどうしたって怖いところがあるらしく,東京の頃の後輩たちに聞いたところによると僕のTerror値は高いと言われた.もっとも,本人の面と向かって怖いと言える怖さはほどよい怖さである.人間にとって最も怖いことは相手に対して怖いと言うことの出来ない事態に陥ることであり,そのような事態をもたらす人の前からは可能な限り逃走するべきだ.自分の置かれた状況について発言できないことは人間にとって危機的な事態であって,僕がフィクションの人たちに対して酷いことを言わないようにしてるのは,彼らが僕の一方的な文句に対してはうまく発言できないがためである.

ともかくそんなわけで4回生に対しては怖くなりすぎないように気をつけている.しかし,この文章中でも既に混同しているように,厳しいことと怖いこととは本来別のものであるが交ざりがちである.人は厳しさよりも怖さのほうに敏感なのか,厳しさのつもりが怖さとして受け取られてしまうことがある.困ったことに自分でもどちらのつもりでいるのか区別の付かないことが多い.つまりは二人の間で時間をかけて納得してゆくものなのだろう.4回生というのはただでさえ歳の差のせいで怖がられるのに自然付き合いも短いからどういう結果となったのか自信を持てない.今日も話が終わった後,相手が部屋を出て行ってしまったのでどきどきしていたが,単に飯を食べていたようだった.ようだったと思うことにした.それにきっと彼にとっても何のために部屋を出たのかは明確に区別出来ていなかったのではないだろうか.

深夜にレポートが届いたので読むと,強調したつもりのエッセンスが一つ抜け落ちていてがっくりきた.今日の話は単に回っただけであった.明日もう一度説明しなおさねばならない.とはいえ残りの部分は具体例が多く考察も一通りやってみた文章であり,手ぶら状態であった前回の発表と比べると無限大の進歩が見られたため,まずはほっと胸を撫で下ろした.

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