みかん追分

祖母の家で食べるご飯の記憶.

大勢のときはきまって店屋物をとることになる.僕ひとりの時も小さい子が喜んで食べるようなものを作るのは難しかったのか,うどんをとってもらった記憶がある.僕にとってはうどんの出前などそれが最初で最後だった.

大学生の頃,毎月ひとりで祖母の所へ行ってた時期がある.若者向けはレパートリーの端っこにまだあったのか,炒め飯(と祖母は呼んだ)など油っこいものを出してくれた.色が濃くて,ご飯粒ひとつひとつが落葉であるような,晩秋の風情がした.母が作る「焼き飯」はもっと明るくて粘りけのある初夏だった.

いまの僕の味覚はもう,祖母に追いつくことができたのではないかと思う.

先日,母と電話したときに,僕があんまりみかん食べないよね,という話になった.確かに昔はリンゴのほうが好きだったし,姉がみかん星人だから余計僕はみかんを食べないということになったのだろうけど,今は普通によく食べるのだよ,ということを確かに伝えたので,いま実家から送られてきたみかんを食べながらこの文章を書いている.

電話の半分は送品とそのお礼とご飯の話だ.叔父が東京住まいの頃,小料理屋みたいな居酒屋でおばちゃんと仲良くなっていろいろ野菜の小鉢など出してもろたりしてたとか,そういうことを勧めてくるので,なんぼ高くつくねんそれと首を振ったり.祖母の家に戻った叔父が,お酒を飲むものだから油ものが欲しくて,祖母のご飯をあまり好かないと聞いて,もったいないなぁ,と思った.つくづく僕は母の世代感覚でいうところの大人の男じゃないのだろう.今年の正月は男ばかりの部屋に押しやられて大変な目に遭った.

僕の祖母はお姫様みたいな人なんだ,と聞かされて育った.だけど姫といっても関西の姫さんだから相当どぎつい,ということもようやく知りつつあります.

Baby Princess (6) (電撃文庫)

Baby Princess (6) (電撃文庫)

1巻に引き続き陽太郎くんのばーちゃんの話.お姫様貧乏なばーちゃんの作るご飯の思い出がぐっときます.

小雨にばーちゃんの話をしたら,少し泣かせてしまった.

あわててなんとか慰めて--陽太郎はリビングを後にする.

(p.90)

僕もすこし泣いたので慰めてください.

それで慰めてくれるといえば春風姉さんですが,

自動販売機で買った冷たいソーダのボトルを陽太郎にわたす.

「本当は,ウチでは炭酸はあまり飲んだらいけないことになってるけど,内緒ね」

(p.96)

ソーダってどうも大人っぽい飲み物ではないので,子供扱いされちゃったかなぁ,とは思った.

フラリと家を出てきた陽太郎が持っているものは,ポケットの中のサイフと,いつも青空がくれる空色のソーダ味のキャンディー--.

(p.157)

にしてもやたらソーダをもらう陽太郎であった.僕も高校の頃はコーヒーってそんな飲まなかったけどね.

今日のみんなの夕食は特別の特別に--夜店で食べたたこ焼きと焼きそば.

それにラムネ.

(p.194)

炭酸の話ばかりだわ.夏の恋はソーダ水のラムネ色なんでしょうね.

そしてカレーパーティ-もあったし.食べ物の思い出が満載の6巻でした.

僕はカステラが好きだったのかな.

大切なことだからもう一度書くのだけど.

昨日通販で届いた讃岐うどんのセットが目に付いた.

元々は美琴の為に取り寄せたのだが,反応はイマイチだった.

「子供の頃,うどんが好きだったから,喜ぶと思ったんだけどなぁ」

(「恋色空模様」より)

君はどんなけお母さんなのか.

ま,人の好みってのは常に変化するものだしな.

特に子供の頃,好きだったからといって,今も好きかどうかは分からない.

昨日好きだったものが今日違ってるのは当たり前で,しかも,何歳になっても親と子では流れてる時間の速さが違っていてね,実家から宅配便に包まれてやってくる好みはおのずとずれてゆくのだけど.

僕の代わりに僕の好みを覚えていてくれるのだ,と時々思うこともあります.

(初出: http://d.hatena.ne.jp/tsutsu-ji/20100717

上のは兄貴の独り相撲に終わったけれど,別の兄妹のことも採り上げておきたい.

生き別れで再会した兄妹の会話である.

秋穂「そうだ,にいにいはハンバーグが大好きだったよね?」

公人「……そりゃ,昔の話だよ.それに今は食材がない」

秋穂「あ,そっか,昔の話か……でも,食材ならあるよ.ほら!」

公人「豆腐?」

秋穂「お豆腐のハンバーグ! 食感も味も全然違うけど,結構美味しいよ?」

秋穂「お肉は~……あ,全然ないね.なら丁度いいよ,今晩はヘルシーに行こうぜ!」

公人「へえ,豆腐のハンバーグか.美味しそうだな」

(「妹スマイル」より)

昔の好みの話を持ち出しても戸惑われるだけだったりするのだけど,そしたらそこはねぇ,元気よく新しい方向へ振っちゃう.ふたりで新しい食事の記憶をつくってゆけばよいのだ.今晩はヘルシーに行こうぜ!

じゃ,最後にもういっこ.再会した幼なじみの会話.

ひよ「……だんなさまは昔から,”和”がお好きでしたわね」

 みんなにはっきり言った事はなかったんだけど,ひよは会話の節々や俺の態度からそれを察していたんだろう.

 あの日の献立だって--

笹丸「でも,よく憶えてたな.あれって子供の頃,クラスで”みんなは大きくなったら何が食べたい?”とかの話になった時に俺が言ったものだろ」

 みんなが”フランス料理”とか,ちょっと物知りな奴が”満漢全席”とか言っている中,俺は地味に”おろし明太”とか”ひじき煮”とか答えた.

 憧れだったんだ.ずっとずっとそういった料理に憧れていた.

ひよ「だって……」

 ひよは少し恥ずかしそうに,

ひよ「いつか,だんなさまに作って差し上げたいと思って……ずっと練習してきましたから……」

 そう言った.

(「きっと、澄みわたる朝色よりも、」より)

笹丸は幼い頃と好みが変わらない.というのもそれは好みではなく何が食べたい?という程度の話がいちいち憧れの域に達してしまっているからで,そういう面倒くささを抱え込んだ彼だからこそ,ひよの献身は母親が巣立った息子にするときのようなずれを伴わずに受け入れられている.

だけど,僕の好みはどんどん変わってゆくし,会話の機転だってないもんだからさ,母から何たべたい?と聞かれたときに何々が食べたいとはっきり答えること,おいしいものに必ずおいしかったよと伝えることが,お正月や電話口での僕のたいせつな仕事だと考えています.

恋色空模様

恋色空模様

普通っぽい女生徒たちが当たり前のように武装して戦ってる様子が痛ましかった.

妹スマイル

妹スマイル

冒頭でマイ妹を選ぶゲームなんて久しぶり.兄妹の会話がなにかと味わい深いです.

公人「デザートは,作れそうだな」

男は胃で捕まえろって言うけど,それは逆にも当てはまる.

暦に見つかったら,それはあたしのセリフって言われそうだけど.

きっと、澄みわたる朝色よりも、 豪華初回限定版

きっと、澄みわたる朝色よりも、 豪華初回限定版

人の悪意にあてられて何度も胸が苦しくなりました.辛い.

アララギの笑顔には目頭が熱くなります.

おはなし,おはなし,おはなし

レレレレドシラシドシラ

この音階に根拠なんかなくて

目的もあやふやで秘密もない

(KAN, “めずらしい人生”)

この投げつけてくるような歌い出しが大好きで,僕にとってもいまやおはなしを作るということは根拠も目的もないようなものを探ることでした.

RPGのために,星のむすめさんのためにであるとか四葉のために僕は書いてきたのだけど,そこからずっと距離を置いてみてようやく,誰か読む人のためのおはなしというのがあるんじゃないかと気づいたりしています.

おはなしの種を手放したつもりでいたのだけど,そう考えたら,新幹線のなかでキーボードを開いたとき,ひとつのおはなしが始まっていました.

このおはなしが今後どういう風になるかは判らないのですが,しばらく書き続けてみたいと思います.

うさぎホームシック

実家に帰ってみると食器とかもろもろにうさぎが跳ねてたので幸せでした.お皿とか底にうさぎ柄のはいってる湯飲みとか.卯年最高ですね,ぴょんぴょん.

風船うさぎと雪さんのことを思い出して昔の自分の水月感想を読み直したけど,やはりよく判らないところがある.昔の文章読んでも判らないっていうのはいつも言ってることだ.ただ,言葉に出来ないことを言葉にしようとしてどうにか書き留められた文章だとは判って,何度も読み返してこの文章しかないと思って残したのだということを確かに憶えている.

近年の僕はこれでもまだ意味の判る文章を書き過ぎているので反省すればいいと思う.意味が判る程度のことを書くというのは僕にとって良くないことだ.