《そう、その男の子を探す旅路の途中にいる》 そんな風に成瀬が評する少女チックな遍歴としての、Sense Off perfect drama 「WORLDS」について。
このドラマでは、成瀬の抱えているもう一つの世界の存在とそこに居る男の子のことについて、成瀬が他の女の子と順番に話をするなかで、相手の意見を聞いたり、成瀬のほうで何かを感じとったりしてゆく。
成瀬「うん。どこかは判らないけど、こことよく似た、もう一つの世界。その世界でね、私ひとりの男の子と仲良くなるの。へんてこだけど、素敵な男の子と。でも私、その子を置いて、その世界から出て行っちゃうの。だから、その男の子を探さないといけないの。」
(世界a、トラック2:もう一つの世界)
■ 第1の遍歴:珠季(1)
トップバッターは珠季。こんなナイーブな話ができる相手というのは、成瀬にとっていちばん親密な相手でなくてはならない。
珠季の意見としては、こうである。
珠季「なんだかよくわかんない話だな。」
成瀬「さっきもね、見てたの。その夢を。」
珠季「夢?夢の話だったの。」
成瀬「うん、夢。だけど、夢っていうだけじゃない、もっと切実に迫ってくるの。その男の子を探さなきゃいけないって。その男の子をひとりぼっちにしちゃいけないって。ずっと昔から、その夢を見てたの。」
(中略)
成瀬「ごめんね、変な話聞かせちゃって。なんだかどうしても誰かに聞いて貰いたくて。」
珠季「いいよいいよ、収穫もあったしね」
成瀬「収穫?」
珠季「うん。成瀬がすっごく少女チックだって判ったこと。」
成瀬「な、なによそれ、珠季だってものすごーく夢見がちなくせに。私知ってるんだからね。」
(世界a、トラック2:もう一つの世界)
よくわかんないけれど、ぜんたい少女チックな印象である、と。夢または切実ななにかの男の子のことを考えてるって告白された日にはそう思われても仕方がない。それに《珠季だってものすごーく夢見がちなくせに》というのは自分の少女チックについては認めるところもあるのだった。
■ 第2の遍歴:依子
次の相手は依子さん。成瀬とは生徒と先生という関係で、成瀬は先生に質問するみたいに「もう一つの世界」の存在を尋ねる。
依子「そんなものが実際にあるのかどうか、私には答えられないわね。観測できないものは。」
成瀬「そうですか、」
依子「ああ、一つだけ成瀬の興味に答えられるかもしれない話があった。」
成瀬「えっ」
依子「ま、話半分に聞いてほしんだけどね。量子力学に、エヴァレットっていう人が考えた多世界解釈っていう説があるの」
(世界a、トラック7:観測不可能な世界)
もう一つの世界が存在するのか。依子さんの答えとしては、回答不能、である。ただ、依子さんとしては関連する話題として話半分にという前提で多世界解釈について紹介している。依子さんの回答不能とは、もう一つの世界があるのか、世界は幾つあるのか、という具合に世界の数について考えてしまう向きに対する、積極的な保留だと思える。
■ 第3の遍歴:椎子
次は、椎子と美凪の会話を聞いた成瀬の所感より。
椎子「もともとはこんなあみだくじじゃなくて、ただ、前世から結ばれてるひとがいたらいいな、って話してたんですけど」
美凪「あーそうそう、椎子がそんなロマンスさんやって話しようと思ってたんやー」
椎子「なーによ-、その言い方、別にいいじゃない、きっと美凪は女の子じゃないんだよ」
美凪「あー、ゆーたなー」
椎子「うー」
美凪「生意気いいおってー」
珠季「なにをやってるんだか、」
成瀬「前世から結ばれてる人、か。」
珠季「え、何か言った?」
成瀬「ううん、独りごと」
(世界a、トラック7:観測不可能な世界)
前世から結ばれてる人、という椎子の言葉が成瀬にはストンと落ちてくるものに聞こえたのだろうか。少女チックあるいはロマンスさんな感性において、もう一つの世界に居る男の子とは、前世から結ばれてる人というのに似た感じ方なのかもしれない、そんな風に思えたんじゃないだろうか。
なお、椎子が前世について想うことについてはゲーム本編への参照が感じられる。ゲーム本編におけるルートは本ドラマでは成瀬の遍歴先として直列に並べ替えられている。
■ 第4の遍歴:珠季(2)
お次は再び夢見がちな少女の真打ち、珠季が登場する。
珠季「もう一つの世界か。わたしにも、もうひとつの世界に置いてきた誰かが、いたりするのかな」
成瀬「きっといるよ、珠季、わたしや椎子ちゃんより、ずっと女の子だから」
珠季「え、なにそれ」
成瀬「そのままよ。」
珠季「ううう」
珠季「でもね、成瀬の話を聞いてから、たまに思ったりするんだ。」
成瀬「え、なんのこと?」
珠季「もう一つの世界のこと。きっと、もう一つの世界ってあるんだよ。
もしも好きな人がいたとして、その人も自分のことが好きなんだとしたら、
二人の結びつきっていうのは、他の誰がいるのとも違う、その人と自分だけの世界を作り上げるんだと思うな」
成瀬「うふふ、」
珠季「なによ」
成瀬「ほら、やっぱり女の子」
珠季「う、悪かったな。」
(世界a、トラック7:観測不可能な世界)
ここで成瀬はもう一つの世界の男の子を想うことについて、少女チック、ロマンスさんな女の子説を採っている。珠季がその説を突き詰めた先には、それは二人だけの世界のことを指しているのだという女の子らしい夢見があるという。
■ 第5の遍歴:透子(1)
さて、トラック7を珠季が締めたところで、最後の相手は透子である。成瀬と透子とは1年の間をあけて2度話をしており、そのいずれも珠季が居残りで依子さんの補習を受けている間の出来事である。珠季のいないここで、成瀬はまた新しい意見を聞くことになる。
成瀬と透子の1度目の話は次の通りである。
透子「あなたが見たのは、たぶん、もう一つの世界なんかじゃない。」
成瀬「えっ」
透子「もう一つの世界、そんなものは存在しない。あるいは、あったとしても、私たちは見ることはできない。」
成瀬「そう、ん、依子さんもそんなこといってた」
透子「ただ、そのあなたの探している男の子は、ひょっとしたら、いるのかもしれない。」
成瀬「え?」
透子「あなたがその男の子を探しているように、わたしも、ある人をずっと探しているから」
成瀬「透子も?」
透子「ええ、ずっと昔、一緒だった人。」
成瀬「その人、素敵な人だった?」
透子「素敵?その価値判断の基準は、私にはなじみのないものだけど、けれど、いなくてはならない人だった」
成瀬「そう、だったら素敵なひとなんだね。私が探している男の子も、そうだから。一緒にいないといけない人だから」
透子「こうやって、空を見上げてると、」
成瀬「え、空?」
透子「ええ、空を見上げてると、その人の意識の欠片を感じることがある。もうずっと昔にいなくなってしまった人だけれど、かすかな意識の存在を、感じることがある。」
(世界a、トラック8:示唆)
もう一つの世界はあるのか、依子さんが積極的保留としたことについて、透子の意見からは《そんなものは存在しない》という言葉も交えた否定のニュアンスを感じる。しかし、透子はそれでもその男の子はいるのかもしれないという。
透子の探している人は《ずっと昔》、遠い過去のものである。透子が成瀬に対して共通点を感じ取ったとすれば、それは、成瀬の探す男の子も自分と同じように時間的に遠く離れた誰かであるように思えたからではないだろうか。
《その人、素敵な人だった?》というのはこれまでの少女チックの名残である。1度目の成瀬と透子の話では、男の子がいるのはもう一つの世界ではなく、それは時間的に遠く離れたところなのではないかという透子の考え、そして、椎子ならそれを前世と呼んだかもしれなかったロマンスさんを感じさせるが、透子は成瀬の男の子がずっと昔の人であるとは明言していないことが覗える。
■ 第6の遍歴:透子(2)
それから1年後にまた、透子は成瀬にこの話をする。透子はこの後1年間も成瀬のことを気にしていてくれたのである。有り難い。
透子「あなたの能力について、一つ、考えたことがある。」
成瀬「考えたこと?」
透子「ええ。あなたは、ひょっとして、未来を知ることができるのかもしれない」
成瀬「え、未来を知るってどういうこと?」
透子「言葉のままの意味。あなたは未来を見ることができる。予知することができる。」
成瀬「予知?何それ、わたしそんなことできないよ?だって、今日の晩ご飯のメニューも、明日の天気も判らないよ。」
透子「それは、自覚的に能力を使えないということ。無意識のうちに、未来を見ているのかも知れない。たとえば、夢という形で。」
成瀬「夢、えっ、それってまさか?」
透子「ええ。あなたの見ていた夢。それはもう一つの世界なんかじゃなくて、未来に起こる出来事なのかもしれない。」
成瀬「そんな、でも、どうして透子にそんなこと、」
透子「もちろん、推測に過ぎないかも知れない。けれど、私は知っていることがある。それを元に考えれば。」
成瀬「透子、透子はいったいなにを知っているの?」
透子「私たちの、種族の歴史。」
成瀬「種族の、歴史?」
透子「ええ。けれど、それはあなたに話すことじゃない」
成瀬「でも、それじゃあ、わたしはあの男の子に、直弥に会えるの?」
透子「会えるかも知れない」
成瀬「わたし、信じていいのかな。」
(世界a、トラック8:示唆)
遠く離れた時間にいる誰か、透子にとってそれはずっと昔の誰かであるが、成瀬にとってのそれは、ひょっとして未来の誰かなのではないか、という発想の転換である。透子の言う種族の歴史というのはここでは唐突でよく判らないわけだが、それはそうと、いつか未来で出会う誰かのことを夢見てるって、あなた、ロマンスさんですね。
少女チックは過去に向かっても未来に向かっても伸びている。それはいずれも今ではないことを想像するためである。
■ おわりに
織永成瀬の、織永成瀬たちの少女チックな遍歴を見てきた。
選択肢があろうがなかろうが、畢竟、女の子それぞれが話す声へ耳を傾けることにギャルゲーの楽しみがあると思うので、成瀬が他の女の子たちの話を聞いて回るこの遍歴にもまたギャルゲーらしい形式を感じる。