ずっと前から好きでした競争というのがあります。いわく、出会ったときから好きでした、前世から好きでした。相手より自分のほうが先に相手のことを好きだったら勝ち。そのほうが好きって気持ちが強いんだ。……これはまぁお互い不毛に時間を遡るほどふたりの好きを足した総量が高まってゆきまして、審判としましてはいつか「ごちそうさまでした。」となります。
現在から過去へ遡るレトリックは恋情の証なのかもしれません。
沙織 「知ってる? 太陽のエネルギー放射量は……」
慶司 「約3.85×10の26乗ワット」
沙織 「正解--それからもうひとつ……」
沙織 「私は、けーくんが好き」
慶司 「どうりで熱いと思った……」
最初の問いは知っていること。あとの問いは知っていたこと。
現在完了、知っている。
過去完了、知っていた。
約3.85×10の26乗ワットだって慶司の《知っていたこと》と言えるのですが、それをわざわざ《知っている》として後者の恋情に《知っていた》を充てるのならば、好きなんてとっくに知ってました! あなたが現在いまさら言うよりとっくにとっくに先に知ってました。あったりまえよ!と捉えて見せることもまた恋の取り扱いかたなのでしょう。
文脈をすっ飛ばした太陽に虚を突かれ、ワット数を背にした《好き》に撃たれ、過去的な恋愛修辞で締めて時空が一望されます。たった6行でめろめろでした。

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