真の幸せ(イモウト)は、恋から作る

「真の幸せ」(イモウト)は恋から作る,ってパッケージ裏に書いてあるわ! そのまんまだ…….

記憶や記録のない他人から始まる生き別れの妹が,どんなものか判らないその,妹,っていう言葉の器を満たしてくれる何かを求めるときに,いったん恋人のような関係を経由する,というのは妹スマイルの夏希編でも採られた手順だった.

しかし,生き別れでなくたって,ふたりの未知の関係が目指されるときに,本作ではその関係のことを妹と呼ぶわけなんだけど,それは恋やら肉体関係を経て,そうして妹へと近づいてゆくのだ.

聡里「でででも……ちまちゃんが『昨夜妹にしてもらった』って……」

会話としてはギャグの流れであるが,初めて身体を重ねることが「妹にしてもらう」と表現されるのには独特のズレを感じる.たしかに,妹が恋から作られている.

イモウトノカタチ

イモウトノカタチ

そういうわけで,恋人を経て,妹へ辿り着いた地点でいったん幕を閉じる美優樹さんの話はイモウトノカタチらしいなぁ,と思えるので気に入っています.

「初めて会ったときから……再会したときから、兄だなんて思ったことなかった」

もうひとりの妹は美優樹の対極に立つんだけど,その立場を採るにあたって,恋人であるミータとの関係を伴ってる.女の子が妹を目指すことなしに男の子と身体を重ねるには特殊な理由を必要とするのが本作のあり方でした.

イモウトノカタチ

生き別れの兄妹を探すことが理想の恋人を探すのにも似た水準に置かれ,男の子と女の子が兄妹という言葉でもって互いの間柄を測ってゆくお話.

生き別れの兄妹といえばふつうは血縁上の兄妹を指すと思うけど,記録も記憶もない,まともな手がかりの失われた状態で捜索する場合は何を頼りにできるだろう? どうしたら妹だって判るの? 妹ってどんなの? って考え始める.

雪人「……兄弟って、なんなのだろう……?」

血の繋がり? 連れ添ってきた時間? お互いの感情?

それとも、別の何か……?

血縁はなくても一緒に育ったのだったり,本当の兄や妹を代行するものだったり,単に妹みたいな気がする女の子だったり,兄みたいな気がする男の子だったり,恋人の一種だったり,あるいは片方が背が高くて片方が背が低いという程度のことかもしれなくて.

雪人「俺、今回のことでよくわかったことがあるんだ」

雪人「妹だと思って見ると、年下の子はみんな妹に見える」

むちゃくちゃだ! 前途多難の妹探しである.周りの女の子にも訊いてみるよ.

雪人「みんなは俺のこと、兄だと思えたりする?」

昼食を食べにきたらしいみんなにも聞いてみた。

美優樹「年上だし、私の境遇を考えると可能性はゼロじゃ無いとは思うけど、それを裏付ける情報が無さ過ぎだよね……」

静夏「残念ながら美馬くんは、お兄さんって柄じゃないかな」

聡里「自分は美馬先輩は素敵なお兄さんだと思う、から……

   もしそうだったらいいなって……」

三者三様の答えが返ってきた。

雪人「ここにいるみんなは、災害で兄弟・家族と離れ離れになってしまっている」

雪人「そして、家族との再会を求めているはずなのに、俺が兄弟かもしれないと感じるのは二人だけ」

雪人「これはどういうことだろう?」

戸籍に頼ることができない場合,兄の要件は年齢かもしれないし,男の子の性格が評価されるかもしれないし,女の子のほうの気持ちが大事にされたりもする.

妹の形も兄の形も不定形だ.しかし,そのなかにいくつかのポジションを見つけてゆくしかない.

ただ千毬だけは、ずっと兄妹のように暮らしてきたからか、考えが読めるからか、兄妹かもしれないとは思えない。

『かもしれない』じゃなくて、『ようなもの』って確定しているからかもしれない。

義理の妹だと思って一緒に暮らしてきた千毬のことは,生き別れの実の妹かもしれない,とは思えない.そんな風にひとつひとつ切り分けてゆくのだ.

前作,ヨスガノソラは,同じ学年でありながら互いの間柄を測るときに兄弟や姉妹という関係が持ち出されがちなお話だった.春日野穹と悠の双子,天女目瑛と渚一葉の異母姉妹,そして極めつけが留年している中里亮平だった.イモウトノカタチの雪人も同じで,年上だと思うか,同学年だと思って付き合うかを迷い,その都度選びとる余地があって,年上だと思えばお兄ちゃんであるような気がするかもしれないし,またある時は同じクラスの恋人であるように思える.

そんなふうに,妹という関係を選び取ることもできる.

あやか「でも、もし本当の妹さんが見つかったら、どう言い訳する?」

雪人「そっ、そりゃ……お前の双子だよとか、お姉さんだよとか……」

あやか「ふふっ、そんな調子だと、雪人が妹だって思った女の子はみんなあたしの妹になっちゃうじゃない」

厳密に突き詰めればギャグになってしまうけれど,そのときその場のふたりの関係を結ぶために妹は都度立ち現れる.

男の子と女の子,女の子と女の子の,ふたりのある瞬間の関係をとらえるためには兄妹姉妹の形を参照する,という執着をイモウトノカタチはヨスガノソラから引き継いでいる.あまつさえ,そこにロボットが加わる.

ミータ「私の灰色の脳細胞がビビっと来るしたです。

    私も『お兄ちゃん』と呼ぶです」

イモウトノカタチ全体を眺めると,同学年または年下の人間の女の子は全て妹的であり,素朴に恋人と言って良いのはロボットの娘さんだけ,という極まった構成である.偶然みたいに言い出した『お兄ちゃん』から,生き別れの妹ではあり得ないロボットの娘さんのお話が始まって,恋人として妹の形に組み込まれてゆく.話の落ち着く先としては,あやかアフターストーリーで四姉妹のようになるのが好み.

イモウトノカタチ

イモウトノカタチ

それはそうとして,静夏さんと聡里さんがとても素敵なので立ち絵をガン見でした.

瀬名美優樹さん.我慢もしがちだけど,なにが問題なのか不満なのか言うときははっきりと言葉にしてくれるありがたい人.雪人さん嫌いじゃないけど,美優樹さんの言葉を半分も聞いてない点に関しては駄兄というしかない.やわらかいけど芯もある,しなやかな声の持ち主.

美馬千毬さん.たいへんかわいい.通常,恋人の置かれる位置に妹の置かれるところがこの作品の倒錯めいたところと冗談の種になっています.「言い方が悪かった。恋人じゃなくて……妹、そう、千毬を本当の妹にするよ」「ナンパなんてしてないだろ。彼女じゃなくて妹になって欲しいだけなんだから」冗談で茶化しつつ,妹の意味をスライドさせることで関係が築かれてゆきます.

澄稀あやかさん.駄兄であるお兄ちゃん1号の代わりにお兄ちゃん2号として雪人さんが立つ.1号との和解の道は周到に敷かれているように思います.

MeTAさん.どういうタイプのロボットであるか,事前に予想して臨みました.だいたいのところはマスター=スレーブ型だと思っていたので,だいぶ大きく外しました.ランニングの好きなロボットをどう見るか,ということでした.

清宮真結希さん.ゲームプレイマニュアルを開いた瞬間から,ある一つの予感とともに,この人の元に辿り着くのを楽しみにしていました.結果として,およそ,辿り着けたのではないかと思います.

藤咲静夏さん.招き猫のような立ち絵のお姿に痺れます.

漁聡里さん.マイ生き別れ妹.

年上の妹,記憶のなかの兄妹,ロボット

電話にて.この中に1人妹がいるわけだから生徒会長の人(天導愛菜)にも妹疑惑がかかるはずよね,と言ったら,年上なんだから妹のわけないでしょうとにべもなく.でも魔女の人(嵯峨良先輩)は孤児で実年齢にゆらぎがあって妹かもしれなかったやん,いやその手はもう使ったので二度はないと.ウラシマ効果とかでどうにかなりませんか.無理ですか.

生き別れの妹というのは,年齢差のある女きょうだいだったかもしれないし,彼が兄でもう片方が妹という役割をあてていたのかもしれないし,背丈がちいさくて妹みたいに思えてたのかもしれない.幼い頃の記憶では姉と弟のようだったけど,男の子の背が伸びて,再会したときには兄妹みたいになっててお互いに気づかない,とはまれによくある話で,あるいは女の子のほうが男子の背を追い越す場合もあるわけで.

絆を感じさせる妹という言葉と,記憶や記録が失われることの組み合わせは格好のミステリーになる.確かなはずなのに曖昧で判らない.妹は広く,そして変化する.

それで,生き別れの妹を捜してる孤児の男子と生き別れの兄を捜してる孤児の女子が出会ったならばまずはどうする?

雪人「そうだ! お互い感動の再会を果たしたら、またこの街で会うっていうのはどうだろう?」

美優樹「ここで?」

雪人「ああ、瀬名はお兄さんと一緒に来てくれ。俺も妹を連れてくるから、四人で思いっ切り遊ぼう。きっと楽しいぞ」

いや,四人ちゃうやろ,きみらが兄妹ちゃうんか,というツッコミ待ちである.女子校暮らし,ど田舎暮らしを理由にしてこのふたりのダブルボケがずっと続くなか,あんたらが兄妹ちゃうんか疑惑の引っ張り具合も自然なものと思えてくるのが可笑しい.

イモウトノカタチ

イモウトノカタチ

ダブルボケのコンビが新生活になじんでゆく序盤.記録に残ってない人間と,人間にしか見えないロボットの存在,名前も年齢も定かでないだろう孤児たちの,どうにも見た目や記憶の役に立ちそうもない兄妹さがしが始まったところである.