晴れの似合う少女にこそ幸あれ

つ~たかつ~たか,ふんふんふ~ん,である.メルンが洗濯物を干している.

晴れの似合う少女にこそ幸あれ.そんなことを,呟いてみた.

穏やかな日和.かすかに漂ってくる潮の香りと波の音.それに,新緑と土の匂い.メルンの鼻歌.それらが渾然として体を包んでくれる.……いい気分だ.

(「フロレアール」より)

日光に匂いなどないが,これをおひさまの匂いと呼ぶのだろうよ.

そして,洗濯日和と,とある少女のおはなし.

後,観客と言うわけではないが,少し離れた所では,のどかが洗濯物を干していた.

何でも,今日は絶好の洗濯日和なので,洗濯物は是非外にーーということらしい.

朝,彼女は家中のシーツを引っぺがしていた.

(中略)

のどか「乾燥機は確かに便利ですけど,お洗濯ものはやっぱりお日様に当てて干した方がいいと思うんですよね」

のどか「外でしっかり乾かした洗濯物って,お日様の匂いがしません?」

小次郎「……そういうものかな」

のどか「そういうものですよ」

(6月13日谷田部家にて)

晴れの似合う少女にこそ幸あれ.やはりそんなことを,呟いてみたくなる梅雨の晴れ間と白のシーツとのどかの笑顔である.が,ある夜のこと.

のどか「…………ごめんなさい」

小次郎「は?」

のどか「ごめんなさい.嘘なんです全部」

小次郎「……嘘? 何がだ?」

のどか「お洗濯ものをお日様に当てたいとか……私そんなこと思ってないですから!」

小次郎「……え?」

突然,のどかが何を言い出したのか俺には分からなかった.

(7月7日谷田部家にて)

日付を確認すると1ヶ月近くも前の話である.夜食の後に脈絡もなく言われたらそりゃ,え? と返したくなるだろう.あなた1ヶ月もそんなこと考えていたのか…….以下つづき.

のどか「あの時ああ言ったのは……その,竹内牧場にいた時に……虎次郎さんがシーツを干していたことがあって」

のどか「それがとっても楽しそうで……それで,見ていた私に虎次郎さんが言ったんです,洗濯物は太陽に当てて干さなきゃ駄目だって」

のどか「私はそれを覚えていて口にしただけで,そんなことちっとも思ってないんです」

(中略)

小次郎「確かに言葉はあの爺さんの受け売りなのかも知れないけど,それをお前がいいと思ったから覚えてたんだろ?」

小次郎「だからあの時そう思ったんじゃないのか?」

のどか「え……ーーー!?」

のどかが目を見開いたまま,後ずさった.

(中略)

小次郎「嫌なことだったらあんな笑顔で口に出来ないだろ?お前もそう思うからシーツ干すの楽しかったんじゃないのか?」

のどか「え……!」

のどかが視線を彷徨わせた.

ひどく落ち着かない様子で着ている服の肩紐を直してみたり髪に触れてみたり,誰もいないのに後を振り返ってみたり俺を見ては目を背けたり.

のどか「私が……思って……? のどかが……思って……? でもそれは私じゃなくて……のどかが……」

小次郎「の……のどか? おい?」

のどか「と…とにかく私はシーツ干すのなんか好きじゃないんです! 違いますから! そんなこと思ってませんから!! じゃぁおやすみなさい!!」

のどかさんは訳あって自分が喋っていることと自分の気持ちとの接続があまり自明ではないのだけど,シーツ干すという程度の話をずっと気にしてて,わざわざ言いに来るあたりにその根の深さを垣間見たのだった.

ただ一般にも真似してるうちに身についてくる類の話であるから困ったことだろう.じつは「晴れの似合う少女にこそ幸あれ」という一節を元々気に入っているのは末永であって僕じゃない.僕は彼の真似をするうちにしょっちゅうこればっか言うようになったのだけど,晴れの似合う少女に対して思い入れがあるのかどうかはよく判らないでいる.

PARA-SOL

PARA-SOL

マージャ(のどか)一択です.