アトリの空と真鍮の月

本件について僕の引き出しはあまり多くない.ものを考えようとすると大学でRPGサークルをやってた頃の感覚が甦ってしまうのだけどそれは違うのだ.だからなるべくRPGのことは思い出さないようにしておく.

神室立花は頼りになる娘さんだ.こちらに踏み込んで来てくれるのも嬉しい.神室立花がしっかりした村娘であることと僕が異類の娘さんと懇ろになるという話の繋がりは難しくなくてありのまんまに思えてさ,胸にすっと落ちてきたんだ.そういうところが好き.鶴女房みたいな秘められたところもあるのに魚っぽい男女の契りであるとかついには開けっぴろげでそこに性格がみえるよね.

山村に水がじゃぶじゃぶ出てくるところもいい.沼夫人の染み寄せてくるような水でなく夜叉ヶ池のざぶんとしたやつ.そして水が溢れてくるところに男女を置くとしぜん,心中という話になります.

めまぐるしく移る山村の季節と人の思惑のなかにあって,実感の置き所を迷いながら,母との関係をあれこれ考えたり,異類と共にあったり,不意に感応を得たり,心中めいた行為に人々を救うというスケールを与えたり,それはもう,大変な季節だったんだ.

アトリの空と真鍮の月

アトリの空と真鍮の月

手に取った経緯を少し補足しておくと,前作は知らない.ずっと昔,サイキックフォースの開発陣が出していた同人誌で味のあるキャラクターデザインを載せていたのが本作原画のかどつかさで,これが一番のきっかけになっている.脚本の鷹取兵馬は雪色のカルテでシステム越しに死と対面する感じが好きだった.

(4/12追記)

六車月乃の入ったスチルは,あなた一体どこの可愛らしいお嬢さまですか?というような素敵な笑顔をしているので,添えられた文章で描かれるような人に交じらないイメージとは齟齬があるのだけど,そのうちこの人たしかに油断してるとこんな顔して写真うつってそうだなぁという気になってくるのが可笑しいです.

メルクリア

SNOWからちょうど7年,である.龍神村へようこそ.日和川旭の場合,今日出会った家出娘が昔別れた子ギツネに接続されるという類の無理にはたどり着かない.うさぎは人間の女の子であるよりはうさぎとして少年の元へ駆けてゆく,そこに,お話に左右されずある者がある者であることを見る.鶴城亜泉は偶々インブルーリアへ来たので魔法による伝声を願ったけれど,それでも一貫してスケッチブックによる筆談の世界を目指していたように見える.

加えて鷹森日未子が勝負に負けるあたりでSNOWはおよそ神野マサキが書いたんじゃないかという符合を得ました.話の流れを裏切られる感覚があって,というのは話の勢いに乗って女の子が大きな達成とか変化をするというより,たかがお話程度に女の子を変える力はないのだよねという気持ちにさせられるのです.日未子が泣き虫であることの徹底とか.泣き虫ってこんなにいつも泣きそうな顔してるのかと思った.泣き虫が二人に増えたときの手に負えなさもすごい.わたしもう泣かないとか言わない.日未子が日未子であることがしみじみと目指されているように思う.そしてもちろん,傷からの回復を指向するエルナ編を書いたのは神野マサキではない.異世界へ飛ばされるにあたってレダのハートは別段必要じゃない.わけもなく水たまりに落ちるくらいがちょうどいい.ワタルの場合,ヴェネツィアいきたいなー,くらいは思ってたろうけど.

そういや神野マサキで異世界との往還といえばALICE♥ぱれーどがまさにレダのハートですけど,これはプロットを担当したのがPeroなので特殊な場合じゃないでしょうか.

SNOWのことを考え始めると,見た目に反して田舎らしい人々に満ちた花の降る都インブルーリアには雪降る龍神村の面影を感じます.帰ってきたよ,ただいま.おかえりなさい.

しぐれ編,桜花編の楽しい可笑しい彼方さんは望月JETの手によるものでしょうが,他はだいたい神野マサキかなぁと思います.7年がかりのアンサー.JET姉貴も今回,亜泉の小説版を書いてくれてて嬉しかったよ.

メルクリア ~水の都に恋の花束を~ 初回限定プレミアム版

メルクリア ~水の都に恋の花束を~ 初回限定プレミアム版

パメラ好きなんで,パメラには悪いけど気の利いたスチルが用意されてて良かった,良かった.