3.

以下,会話の話からはちょっとだけ脱線しますが,キャラクターと一緒に暮らすことについて別の方向から見ることにします.まずはキャラクターではなく道具の話からになります.人にとって道具が毎日の利用に耐えるものであったり,もっと広く言えば人が道具や家具,家電やロボットなどのモノたちと生活をともにする場合,モノには人の情動(emotion)に訴えるデザインが必要であるということを,ドナルド・ノーマンというHCIの研究者*1が主張しています.誰にとっても使いやすいとは言えそうにないものでも,自分が愛着を持っていれば普段使うものはそれになる,ということはよく経験されると思います.あるいは可愛いものや何かしら素敵なものというのは,使えなくてもそれについて語るためだけに傍へ置いておくということがあります.直感的な経験としてそういうことはあると思いますが,思いつく限り言葉にしてコレクションしたのが「エモーショナル・デザイン」(2004)という本です*2.道具だけでなくみやげ物や運動,フィクションにも触れられています.特にロボットたちに対する語りに偏愛を感じます.もちろんゲームも採り上げられていて,僕がここで脱線したのは次のお気に入りの文章を紹介したいがためです.

すでに人間のプレイヤーに自分から接触を求めてくるゲームもある.あなたがプレイヤーとして「神様」ゲームで家族を創造して,たとえば何ヶ月か何年間か,長期間その作ったキャラクターを育てたとする.あなたが寝ているとき,仕事をしているとき,学校にいるとき,遊んでいるときに,その家族の誰かが助けを必要としていたら何が起こるだろう.その危機がとても重大なら,ゲーム中の家族は本物の家族のようにするだろう.つまり,電話,ファックス,電子メール,その他あらゆる方法であなたに連絡をとるだろう.いずれ,あなたの友人にさえ助けを求めるようになるかもしれない.だから,大切な会議の最中に同僚が飛び込んできて,あなたのゲームのキャラクターが困っていると言っても驚かないでほしい.あなたの助けが必要な緊急事態なのである.
(邦訳版 p.178より引用)

たいへんラブいです.人とキャラクターとを交ぜるこの発想はノーマンも気に入ったのか,本書中にもう一度登場します.

グループの中の何人かのメンバー―――友人,上司,同僚,家族,さらには緊急の援助を求めるビデオゲームのキャラクター―――
(邦訳版 p.212より引用)

人間のなかにさらりとキャラクターが交じっていますね.こんな風に,長い時間を一緒に過ごすコツというのは楽をすることであって,ケータイのメールで時々連絡をくれたり,自分だけでなく同僚が電話を取り次いでくれるような,いつもやっている暮らしのリアクションの延長としてキャラクターと過ごすことができれば,時間をかけることでしか築くことのできない関係が生まれやすいのではないかと思います.

*1:Donald A. Norman.人工物の使いやすさに関する研究の大御所のひと

*2:理論としては「本能レベル」「行動レベル」「内省レベル」というデザインのための認知の分類が提案されていますが,その理論によって本書全体をまとめているというよりは,関連のある話題を緩くたくさん集めているように感じました.

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