人形の魂はどこから来てどこへ行くのかというお話.冒頭,祖母を浄土まで送りに出かけた市松人形の「りかさん」の魂が,四十九日を終えても帰還しないところから話は始まる.蓉子という女性にとってこのことは切実な問題であったはずだが,お話の大部分ではこのことに直接触れられはしない.その話とは居間から始まって,庭へ出て,日本全国を巡り,果ては大陸をまたにかけ小アジアにまで至る工芸繊維の叙事詩である.つまり,ぐんと腕を伸ばして世界の幅を大きくとってそこに連想の模様を織り込んでゆくような回りくどい方法でようやく,魂というよく判んないものは指し示せるか,どうか,といったところなのだろう.
「Rozen Maiden」で真紅が語るような(http://d.hatena.ne.jp/imaki/20041129)人形はゼンマイが切れるとどうなるのか,という話であるようにも読める.
人形と人間とがお話をするという状況において,「からくりからくさ」や須藤真澄の「振袖いちま」に登場する市松人形と「Rozen Maiden」の球体関節人形とでは語りを可能とするための手順が異なっており,それは人形の身体構造に依存している.「Rozen Maiden」の真紅は融通のきくメカニカルな関節を持つため,ゼンマイを巻くことによってそれらが動作可能となったように見える.しかし市松人形は関節をもたない,あったとしても正座が出来る程度であり,りかさんが蓉子を手助け出来るということは魂について描くことによって示される.あるいは,いちまの場合は時々完全な人間の姿に化けさせることによって,人間のゆきと友達をやっていても不自然に見えないようになっている.
少年が突然やってきた小さなメカ人形たちと一緒に戦うことになる話というとまずはゴールドライタンを思い出すが,「Rozen Maiden」がロボットでなくお人形さんの話であるように思えるのはジュン君の裁縫の才能のおかげである.ここで挙げた三つの作品では人形が人間にちょっかいをかけられるようになるための理屈はそれぞれ異なっているが,人間の側から人形の世話をする方法は共通して彼女らの服を裁縫してやることである.なるほど,身体構造に関わらず,お人形さんといえば服を着ているものなのである.一方で人工物がロボットと呼ばれるとき,普通そのメンテナンスについては意識されるが衣装の世話をすることについてはあまり意識されない.
そういえば早見裕司の「少女武侠伝 野良猫オン・ザ・ラン」ではロボット少女がひらひらな服を着ており,ロボットというよりはお人形さんであるように見える(参考:http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200401.html#23a).ここではロボットのようであることと人形のようであることとが上手に重ねられているように思う.
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