護神

せっかく見つけたので夕方だったけれどサイクリングに出かけた.

西部講堂付近できらきらとした異装の女性が歩いていた.珍しいことではないが芝居小屋でも立ったかと思って,見ればなにかは判らないがやはりイベントらしかった.

東一条の角に学園祭の立て看.そういえば2年ほど前の春,同じ場所に置かれた実行委員募集の立て看が件の「だんじょん商店会」であった.判る人は少なかっただろうが,自分が好きなものを巨大に描き設置することこそ立て看の醍醐味かと思われる.

たこ焼きをつつきながら岡崎公園へ向かって走る.たいへん行儀が悪い.

疏水記念館の立て看によると,琵琶湖疏水が疏水百選なるものに選ばれたそうだ.疏水といえば琵琶湖疏水こそがザ・疏水であるのであと99個もあるの?とか思ってしまうところであるが,投票では我らが琵琶湖疏水は惨敗である.ショックだ.

疏水のインクラインに沿った坂道を登る.蹴上までが僕の京都の東端であってここからは未体験ゾーンである.

京阪の蹴上駅を越えたあたりが坂の頂上になっていた.ここを九条山と呼ぶらしい.道は滋賀へ向かう車で大変込みあっている.下り坂なので自転車でぎゅんぎゅん追い抜いてゆく.後で地図を確認したら,国道1号線の裏道であるらしい.

御陵までは地下鉄で一駅である.地図を見れば疏水は御陵の永興寺のあたりで九条山のトンネルに入り,ちょうどこの一駅分の距離をくぐって蹴上から出てくる.せっかくなのでこの入り口も見に行った.

日はほとんど落ちている.暗いが道に見当をつけつつ疏水区域へ.疏水を渡る弓なりの橋があって,トンネルを見るには特等席であるのだが,女の子ふたりが通せんぼをしていたので仕方なく疏水沿いを上流へ.薄暗いためとてもおっかないが,天気のいい昼間には絶好の散歩道だったろう.上流の橋を渡って向こう岸へ.帰ってきたときにはもう女の子たちはいなかった.疏水のトンネルをのぞき込むと,奥にはなぜだか1つ,小さな明かりが見えた.

疏水は御陵の森の後ろを流れてゆく.御陵の前までぐるりと戻った.透子とかが眠る場所である.日は完全に落ちていて,陵墓へ続く長い道は見えるか見えないかである.人工の明かりはまったくない.掃き清められた,おそらくは白い道の,両側に並べられた木立のやけにすとんと縦に落ちた,切り立った道だった.どこまでも続くように見える道の,奥に何があるのかはさっぱり判らない.この道の奥までは誰でも入れるようになっているが,怖くなって逃げ帰った.あいつに比べれば真夜中の糺ノ森のいかに優しいことか.

昼間の上空写真を見ればなんてことはないが,これは真上から見るようなものではない.

だいたい夕方にお墓を見に行くという精神が不健康なのであって,帰りの道々,母が「やめときなさいよもう」と止めたのを感じた.このような命を守らんと傍に立つ声は,護身ではなくただ護神と呼ぶ.

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