拝読してなんかすっきりしないなと思ったのだけど,

40人いれば発育の差はあるもので,男子校ならば男子のがっしりした体つきにときめくために女子の目線を経由する必要はなくて,体育の着替えのとき不意に,男子っているのだなぁ,と気付かされたことがありました.ときめきといっていいかは判らないけれど,もともと大きくて野球部で不良っぽいその人のことを自分とは趣味性格的な差があるのだとして敬遠していたのだけど,それが生物学的な差なんではなかろうかと錯覚したその時に,興味の持ちようが変わったように思われました.男子校経験を元にして功介の太い首について語る際の道具立てが違っていたので,困惑したみたい.

階段をかける少女

学校の廊下や階段を走ることには本人にしか判らないような理由があって,みんなが理由を知ったり納得したりできないからこそ風紀委員や先生はそれを注意する.誰かから逃げなきゃならないとか追いかけなきゃならないとか,遅刻するとか,あるいは階段部の活動であったり,走ってる人というのは本人的になにかが大変なことになっているのだけど,周りから見ると跳んだり転がったりなにやってんだか判らない.時をかける少女については,実際見てるとタイムリープをするには走る必要などないのに本人としてはそう信じ続けていて,そんなわけわけらん走ってる人のその人なりのなにかが別の人にも見えたとしたら,それが恋のかたちではないかしら.千昭くんにだけ判るっていうのはきっとそういうことで,自分もあれを使っているから判ったというばかりではない.

あえて学校の階段をかけ上がらねばならぬしんどさが可笑しい.おそらくは,しんどいほうが効果があると錯覚してるんだろうけど.おばか.もちろん階段をかけ下りることには技術的な難しさがあって,階段部の連中のような修練を必要とするためでもあろう.校舎の立体,中庭と回廊は迷路であり,劇場であり,人や物は飛んできたり避けたりぶつかったりの障害物であり,そうした場所を女の子がかけてく姿というのは見た目,愉快.君を階段部へスカウトだ.

校舎を離れて街へ出ると交通標識やら赤信号やら品のない絵が増えるのだけど,最後にはぜんぶすっとばして走る.象徴くさいものどもにグッバイだ.

姉妹の仲良さそうな様子がとても幸せなお話でした.とっさに何か話さなきゃならないときには妹の話題しか出てこないあたりが特に.そりゃ同じ部屋だもんなぁ.あと手を振り合うところも好き.

ふたりだけでいちゃいちゃと寂しいこと

特別な間柄というのはやはり二人だけの時間や二人しか知らないことを伴うように思うのです.たとえば,ある人と会うときに別の人も必ずいるとそうはならない.そうはならないという経験よりもむしろ,いつも三人でいたつもりだったのにあんたらだけでいつの間にそんなに会ってたんだよと,気付かなくて,後になって知らされることが多くて,そのときのがっかり感がそのまま彼らの間に特別なものを認めるのです.こういう話は男女問わないけれど,男の子と女の子が特別な関係になるには人前でできないことがいっそう多いでしょう,たくさんの女の子からひとりを選ぶことがあったとして,そのとき彼女たちは別々の場所にいたほうが話を進めやすい.だからね,美少女ゲームにおける空間というのはまずは物語に沿ってというよりは居場所を分けるために広がっているのだと思われます.

女の子たち同士を引き離して配置するとき,そのなかに寂しい場所が交じってるのは不自然なことではなくて,離すっていうのはそういうことだからね.ここの Q.17で言ってることは今になってみるとそういう事情に基づいていて,さまざまな場所と結わえられた彼女たちを選ぶことで恋愛の進む本編に対して,特定の女の子に対してあんまり頑張って恋愛しなくていい外伝においては女の子同士が引き離されて寂しいところに置かれるということが改善されて見えたのではないかと.

ONEにおける有名な選択肢に「×長森の席で食べる/○断る」というのがあって,ここで長森ははじめから寂しい場所に居るのではなく,浩平が長森の席で食べることを断って寂しい屋上へ行くことによって,長森は教室の席から引きはがされて,結果,二人きりになります.里村を追いかけるのも長森が追いかけてくるのも,選択肢を経て寂しい場所で二人きりになるという形の上では同じです.

女の子の居場所を引き離して分けることの極端な例は無論,全国各地へばらまいたセンチメンタルグラフティです.そして,北へ。Diamond Dust もその系譜ということになります.北へ。DD のように,はじめの選択によって登場する女の子が決定されるというのはたぶん珍しくないものと思いますが(ぱっと思いつくのはShe'snくらいなんだけど,しかし古いね),ここでは函館,帯広,北見,札幌,旭川……と,選択可能な女の子が広大な北海道の土地にどかーんと割り当てられている点において,美少女ゲームらしい空間設計を強く感じます.こういう直球なところは好きです.

夏の記録

夏コミ情報(トップページにあったものを保存のためはてなへ移動しました.)

 then-d さんが夏コミにて頒布予定のONE評論本『Sweetheart,Sweetsland〜長森瑞佳論〜』において,表紙・裏表紙・挿絵を描かせて頂いております.本については then-d さんのこれまでのONEと長森に対する深くてながい思いが込められたものになると期待されますので,ぜひともお手に取られるようお勧めします.(またそのついでに私の絵のほうも見ていただけると嬉しいです.)

 頒布予定,本の概要など詳しいことは then-d さんのページをご覧ください.

追記:

 無事完売されたそうです.おめでとうございます.(8/14)

(表紙絵「princess in sweetsland」,Zaurus SL-C3000 + CloverPaint 1.1,20hours)