「ラッキーカラーはモノトーン!」ふたたび.

あまり細かいところに触れるのは野暮であるが,ブラインドフォーチュン・ビスケットまわりの話は好きなので少しばかり書いとく.

トンネルオーブン前での出来事について.

「このトンネルオーブンは二〇メートルの長さがあり,ビスケットの生地はこの中を五分間掛けて移動し,毎秒五枚の速度で焼きあげられます.もう一台のオーブンと合わせて,毎時三六〇〇〇枚――」

 少女はオーブンの口を覗き込み,列になって続々と出てくるプレートを,口を尖らせながら,左から右へ,真ん丸にした目で追っている.

 クリスはその表情に笑いそうになりながら,

「熱いので,お手を触れないよう――」

 その言葉が終らないうちに,少女の手がラインに伸び,焼けたプレートに触れた.

 ――プレートの温度は二〇〇度.

「大丈夫ですか!?」

(p.74-75)

一撃で頭部が陥没し,そのまま跳ね飛ばされたクリスは,トンネルオーブンの口に突っ込んだ.周囲を囲むパートから悲鳴が上がり,肉の焼ける匂いが辺りに漂った.

(p.252)

トンネルオーブンの高熱が脅威であることを僕らはクリスとアルファとのやりとりであらかじめ予習済みだった.高熱をものともしないアルファが普通でないことも同様に知っている.そして再びトンネルオーブンにおいて同じことが繰り返されたとき,クリスもやはり常人でないことを僕らはよく理解することになる.

ライン生産されるブラインドフォーチュン・ビスケットの運勢について.

『大吉! 大吉! 仕事運良好・新しい出会いの予感! 金運良好・意外な収入が! 恋愛運良好・気になる異性と結ばれるチャンス! 健康運注意・体を壊さないように! ラッキーカラーはモノトーン!』

(p.76)

ビスケットの天使はテンションが高い.

「(もぐもぐ)素晴らしいわ! 日産三〇万枚,ストック量五万カートンの中の一枚一枚が,こんなに可愛くて楽しくて(もぐもぐ)おいしいなんて! なんて素敵!」

(p.77)

アルファの陽性でテンション高い言葉もどこかビスケットの天使と似ている.僕のなかでふたつは同じ声で聴こえてくる.

 滞空していた天使は次々に寿命を終えて弾け飛び,数秒後,最後の天使が,

『ラッキーカラーはモノトーン!』と叫んで消えると,場内には通常の機械音だけが残った.

(p.80)

運勢がさっきと同じなんだぜ! 僕らはもちろん,おみくじにたいしたバリエーションがないことを知っていて,それは機械がランダムに選択した結果じゃないのか.そんなんでいいのか.人の運勢って誰がどうやって決めるんだろうね? 人? 機械? 神様? サイコロを振る? 振らない? 決断する? しない?

たとえば,ストック量五万カートンについて,

「ストックのことまで,よく勉強されましたね」

 と普段なら決して口にしないであろう――場合によっては無礼と取られるかもしれない――言葉が,つい漏れた.

 しかし,

「いいえ,勉強はしていません」と言って,少女は微笑んだ.「ただ知っているだけです」

(p.77)

意図して勉強したわけではない.機械的にただ知っている.だけどね.

 ナオミは本から顔を上げ,

「……あんた,決断力があるんだかないんだか,どっちなのよ」と言った.

「決断はしていません」と,アルファは言った.「提示された条件に従って選択しているだけです」

「ふうん」と,ナオミは言った.「ま,どっちでもいいけど」

(p.144)

決める,というのは意図をもって決断するのかもしれないし,機械的に選択するのかもしれない.それは黒い天使? 白い天使?

まぁ,どっちでもいいけどな! というお話.

それよかハンバーグ食べたい.

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