発売前レビューその2.
なお,彩野さんの記憶障害について公式サイトの範囲では前向性健忘と明記されない.efでも確か作中でそのように書かれることはなかった.だいいち何度も思い出されそして読み継がれてゆく千尋の記憶の在り方は特別な部類だと思われる.一方「あの、素晴らしい をもう一度」では前向性健忘のことがはっきり語られている.勇者と魔法と現代的な脳専門の医者が同居することによって,あのすばで語られる世界はどこか人手でかき交ぜられたような足場のなさを匂わせている.そうでもないならこんな堅苦しい言葉を使う必要はないし,あのすばでもわざわざ『くり返し病』と言い直している.
とはいえ,僕らが彩野さんのことを前向性健忘だと考える必然もまたない.医学的な診断そのものは重要でない.現在の記憶を15分しか留められないことは,彩野さんは物語を断片的に語るのだ,という事情を素朴に支持するものだろう.彼女は前向性健忘ではなくただそういう在り方をするのであって,だからこそそれは,僕ら15分という短い時間から未来的な時間の流れを生み出してゆけるのではないか,という企みへと繋がっている.時計の針が刻まれてゆくという意味での未来について彩野さんは記憶を保てないのかもしれないけれど,NOVELの時間は時計とは別な風に流れるものだからさ,2nd Future みたいなのがそこにあり得るんじゃないのか.
直哉/ナオヤが不在の物語.そのストーリーテラー,つまり嘘つきとしての彩野さんの性質は,事故の前も後もきっと変わってない.彼女が大した語り手であることに直哉や僕らがようやく気付くことができるのは,記憶を15分しか留められないという事情がそれを端的に見せてくれたからなのだろう.すまぬ.

- 出版社/メーカー: 日本一ソフトウェア
- 発売日: 2010/07/29
- メディア: Video Game
- 購入: 13人 クリック: 140回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
千秋ちゃんが好きだったけど書いてるうちに彩野さんのことも好きになってきました.
P.S.
テクストの予告コーナーで本人が前向性健忘っていってますね.
http://www.textweb.jp/secondnovel
あと逆向性健忘もある.なんかもう,たいへんやんそれ…….
(2010/7/24)