パコダテ人

全編に渡ってしっぽりと描かれるのは高校生のひかると隼人の好きとかスキとかいう関係である.何しろこの二人はお互い意識しているくせにこれでもかというくらい直接口をきかない.視線を交わしたり,自転車二人乗りしたりと言葉以外のメッセージには溢れているが,実際に話をするのは携帯電話で呼び出そうとしたのが一度と,あと携帯メールのやりとりが一度あったきりである.だからといって,初デートもままならない彼らは言葉なしで通じ合える仲だったわけでもなく,つまりこの携帯メールのやりとりがどうやら決定的なものとして強調される.

あるとき,ひかるは彼女の親友であるはずの千穂が隼人とデートしているらしいところを目撃したために,隼人と視線すら合わせ辛くなってしまう.それに加えて,ひかるの周りでは彼女に生えた「しっぽ」が原因となって日常の歯車が狂い,彼女はたまらなくなって自分ちの屋根の上へと逃げてしまう.ひかるが隼人にメールを打つのはそんなときのことである.

ひかる「元気?」
隼人「ひかるは?」
ひかる「海見てる」
隼人「ひとりで?」
ひかる「うん,ひとり」
隼人「気持ちいい場所?」
ひかる「うん……あたしの大好きな場所.いいだろ?」
隼人「俺だって,好きな場所あるよ」
ひかる「どこ」
隼人「こんどいこっか」

ひかる「うん,いいよ ^o^」

(最後の記号はiモードの顔文字)

まずは,新しい混乱に遭遇したとき,一つ前の混乱の保留されるところが面白いと思う.それをきっかけにしてようやくひかるは隼人へ(今までのように)メールを打つつもりになったのだろうし,またそういう気持ちが自分の中に帰ってきたことが不思議なのか,メールを打つときの彼女の顔はどこか敬虔な風に見える.メールを打つ人の表情というのはそう見えるものなのかもしれないのだけど.

途中で「いいだろ?」とくだけてみるあたりはなんとも甘酸っぱい響きだ.視線を交わすだけでは行き詰まってしまった彼らが,言葉でくだけてみせて,またそれに応じることで,もう一歩だけ自分たちの関係を明らかにすることが出来たのである.視線にしっぽはないが言葉のしっぽを捉えることはたやすい.言葉は触れるよりも形でやりとりされるから速くて,高速回転可能で,彼らの気持ちはそこで一気に盛り上がりを見せて,千穂のことを聞く必要もなくなってしまう.そして,ひかるの笑顔.

最後のデートでも彼らは言葉を交わさなくて,だけど肩を寄せ合っていかにもお熱い,ああもうドキドキします.恥ずかしい.この話において正直「しっぽ」はやぼったいと思うのであるが,しかし,こうなるとしっぽでも付けなければやってらんない話ではある.


パコダテ人 ~スペシャル・エディション~ [DVD]

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宮崎あおいの表情を追いかけてるだけで圧倒される.服や髪型がころころ変わるのも楽しくて良い.ちなみにビデオを借りて見たため,DVD収録のメイキングは見ていない.

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