好きな食べ物は何ですか?

昔,SNOWの食卓事情を指して学生には目に毒な話だと書いたことがあったが,それは続編でもそのままであった.「友達以上 恋人未満」でも相変わらず龍神天守閣のご飯はおいしそうである.そしてやはり食べるとき一人じゃない.前回はつぐみさんであったが,いまやそれは女将の役職とともに澄乃が引継いで,ついでに仲居さんであるところの娘さんまで一緒に側に居てくれるのである.変な旅館ではあるが相手は独りでパック旅行に参加してるような寂しい男の子であるからして,彼女らの性格なら時間に余裕があればにぎやかしに来てくれそうなものではある.今回,特筆すべきはバスガイドさんの存在であって,何故だかこの人と一緒にものを食べることが多いのであるが,これがまあおいしそうに食べるのである.おいしそうに食べる人の側ではごはんがおいしくなる.食べることとか笑うこととか寝ることとか,そういう生きてくのに最低限必要なことはどうやら人から人へ感染するように出来ていると思われる.

橘家に立ち寄ったとき,つぐみさん(いまやこの家の奥さんである)がご飯を作ろうとしたのに芽依子がそれに代わろうとした.芽依子には悪いが一瞬,残念に思った.が,あのつぐみさんが太鼓判を押すほどに芽依子も料理が上手いのである.そういえばあの父に料理が出来るはずはなく,ずっと芽依子がやっていたのだろう,それに加えて今はつぐみさんに教わることもあるとすれば上手いわけである.ごちそうさま.

なんにせよ,帰ってきた,という気がする場所である.

ところで先日,祖父の卒寿で実家に帰った.ちなみに卒寿とは九十のお祝いである(つまり「卆」).一族が揃ったのは何年ぶりだったろう.箱のお寿司をとって皆で畳の部屋に並んだ.上座に祖父,そこから叔父や父たちの男性陣が続き,その端っこに僕が座って,そこから女性陣と子供.僕と姉は当たり前のように隣同士に,つまり男女の切れ目のところに座っていて,僕が左で姉が右で,僕は自分の目の前のエビを姉の箱のほうへさっと移した.久々に会うとそういう子供じみたことってしたくなるじゃない.

正直,叔父さんたちとは共通の話題がなくって,祖母や母や姉のいる右のほうばかり向いて喋っていた.大人の,しかもはるか年長の男性の話題はよく判らないでいる.祖母はどんな暮らしをしているのかしきりに尋ねてくる.ご飯は? ・・・近くにいい定食屋さんがあるからそこで・・・そんなん片寄るんとちゃうか?・・・いや,色々出してくれるし.そこで姉が,○○くん魚も好きでよく食べるから大丈夫やで,と言った.ああそうか,僕は魚が好きだったのか,とそのとき判った.エビや貝は出来れば食べずに済ませたいが,魚はそうでもない.小さい頃の僕は偏食で魚しか食べられなかったから姉にはそういう印象があるのだろう.そうか,魚が好きだったのか.

だから最近の僕は,なるたけ魚を食べるようにしている.好物って普通,よく食べるんだよね.

幼い頃の口癖は「どっちでもいい」で,主体性がないとずいぶん怒られた.今ではそれなりに自分で選べるようになったが,それでも時々,ある人の言葉に規定されたくなる.なんだろう,母親が赤ん坊にものを食べさせるとき,おいしいね,といいながら食べさせるものであるが,そんな風に僕はときどき感染されたがっている.

それがきっかけで,僕はこれから魚と肉のバランスに注意し始めるのかもしれない.主体性というのはそんな風に何年たっても新たに獲得され続けるものなのだろう.貴方の色に染めて.そして僕はまた選ぶことが出来るようになるのだから.


(リンク先は18歳未満お断り)

友達以上 恋人未満

友達以上 恋人未満

まだ三日程度しか読み進めてはいないのであるが,こういう話であるに違いない.
そうやって脇道にそれながら読むのが楽しい.


龍神村の写真発見.
うちとこの写真は「龍神村に春が来たよ」.我々の泊まった国民宿舎龍神温泉ロッジは既になく,今は季楽里龍神という洒落た施設になっている.どちらの龍神村も徐々に今風の観光地化が進んでいるようで,ゲームのほうではなんと龍神の滝に売店が出来ている.

コメントを残す