僕の陣地

子供の頃は僕と姉とで六畳間を共有していた.そこには大きな学習机が二人分と二段ベッド,本棚,タンスなどが置いてあったためもう一杯一杯だった.子供だから勉強してるとき以外は床に座ってることが多く,そうすると二人両手を伸ばして座れるかどうかという具合である.だけど僕はこの狭い空間が気に入っていて,手がつっかえるということは逆に言えば何でも手に届くところに置いてあるということで,お気に入りの部品をつめた缶たちやレゴブロック,中学になるとウォーロックやらドラゴンマガジンやらをとっ散らかして,その真ん中に僕は座っていた.手の届く範囲が僕の陣地で,もしも僕の手が3メートルあったなら僕にはもっと広い陣地が必要だったと思うが,うちの財政事情を考慮してくれたのか幸いにしてそういうことはなかった.

自分の陣地をことさらに言うのは子供であって,ほかに距離のとり方を知らないのであろう,ここからは僕の陣地だから入ってくるなと床に線を引いたりする.目に見える形でないと自分の陣地を示すことができない.いや,舞-HiME #5 に出てくる中学生の男の子にそういう人がいてね,男子寮で二人部屋なわけだけど,相方が床に引いた線を踏み越えると怒るのである.あるいはR.O.D. THE TV のアニタのことを思い出してもいい.

ローゼンメイデン(PEACH-PIT)のドール(人形)たちにとって,この陣地はやはり彼女らのサイズに沿ったものとなっている.2巻P.66で真紅が雛苺との間に引く線は非常にちんまい.彼女らの陣地はジュンの部屋全体ではなくそれを彼女らのサイズに切り分けたものとして認識されているように見える.Phase8で真紅と雛苺が床に座り,自分の好きなものを手の届くあたりに散らかしている様子も子供らしい.散らかしていた彼女らはジュンの部屋を追い出されるのであるが,彼の部屋の扉の前に座り込んでまたそこで同じような散らかし空間を作り上げる.そんな風に見える形にしていないとどうも落ち着かないのであろう.それにしても陣地ごと移動してゆくのが面白い.こういうものこそモバイル環境と呼びたい.

桜田家のドールたちはみな陣地にこだわっており,それが普通の子供並みで可愛らしく思える.Phase10では翠星石がジュンとの間に赤い線を引く.Phase14ではそのまんま雛苺の「じんち」の話が出てくる.可笑しいのは2巻で真紅までもが線なんか引いたりして子供くさいことをやっているところである.真紅だって,見知らぬ大きい人(ジュン,のり)の前ではえらそうに振舞わずにいられなかったわけであるが,気心の知れた同じサイズの相手(雛苺)の前だと素で子供っぽいイケズが出来るのである.

コメントを残す