幼い頃,どうしようもないことがある時は大きな声を上げた.自分のやりたいことと自分の知っているやり方とがうまく繋がらなくて,ほかにどうすることも出来なかった.意味なんてあろうはずはないが,それでもなんとかしたいと思うからこそ全力を振り絞って叫んだのである.
話は少し逸れるが,成井豊の「広くてすてきな宇宙じゃないか」を思い出した.ある女の子のお母さんが死んでしまって,その代わりとしてアンドロイドのお婆ちゃんがやってくる.だけどアンドロイドだっていつかは壊れる.だから,そんな相手はもう好きになりたくなんかないから女の子は自分の手でお婆ちゃんを壊してしまいたかった.そこで彼女がとる手段は充電池で動いてるお婆ちゃんの電池を切れさせるというもので,そのために彼女は東京中の電気を止めようと駆け回る.ここで彼女の狙いに対して手段があまりに過剰で,しかし同時に遠回り過ぎるため有効でない点が気に入っている.東京中の電気を止めなければならないはずなどないのであるが,うまくそこのところが繋がらない.例えば友達と喧嘩して「こんな世界滅びてしまえ」なんて思うのはあまりに幼いが,電池云々を考えるのはそれよりはもう少し理屈くささを備えていて,だけどそれでもきっかけと手段とはうまく繋がらない.問題を世界とか東京中とかよりも小さなつまらないところへ落とさないと,自分の手が届くものにはならないのであるが,子供は自分が取り組むべき世界がもっと広いものだと頭の中で考えがちなのだろう.
うた∽かたのいいところはこの繋がらなさである.今回の雷のジンは#2の月のジンと並んでこのズレが大きい.#2の話から始めると,月のジンは人気のない夜の公園山で男の子に怖いことをされそうになった一夏によって呼び出される.しかし「お願いジン,力を貸してください」という彼女の願いは具体的なものではなく,実際に現れる効果もただ強く光輝く力という大雑把なものである.この光の使い道について思いつく様子であるとか二人で考えるプロセスが描かれていればそれが何か効果をもたらすものと期待できるわけであるが,いきなり舞夏が「声は届かなくてもあの光で人が来るわよ」と男の子を脅し始めるので「知るか,んなこと」と一蹴されてしまう.結果としては向こうで自主トレをしていた繪委(昼間にその複線がある)が駆けつけて助けてくれるのではあるが,一夏が光ることと問題の解決とは綺麗に繋がらない.繰り返すが「知るか,んなこと」扱いである.声を上げたって繪委には聞こえていただろう.また一夏が怖いことをされたというのはただ目の前だけの問題であって,その背景となる問題は男の子と別の女の子との色恋沙汰である.この色恋沙汰は繪委の一言によって解決するが,これはもうほとんど一夏が光ったことと関係がない.にも関わらず,彼女が光ることしか出来なかった点に僕は共感を覚えるのである.
今回の雷のジンは江ノ島一帯を停電状態にしてしまうわけであるが,これも友達の女の子が男の子に振られたという一夏が直面した出来事とはうまく繋がらない.雷のジンの力を振るう一夏の口からは「人と人の絆を作り物の電気や道具で繋ぐことが出来るものか」とその理由らしきものが語られるが,間違いメールをきっかけとする今回の背景と照らし合わせてもそこには大きな飛躍が感じられる.なんやねんそれ,と思うのだけど彼女はそうするしかなくて,しかもそうした彼女の目論見とは直接関係なく,単に停電して暗くなったことによって,振られた女の子が友達との仲を取り戻すことが出来たりする.一夏が狙ったこと,いやそもそもその狙いというのもよく判らないんだけど,少なくともそれとはかけ離れていると思われる事情によって別の誰かの問題が解決する.
とてもやりきれないんだけど,一夏が彼女の理解できる範囲で何かもがいているらしいというのがよく伝わってくる話ではある.