うた∽かた #10

前回までの断面が縫い合わされる話.30分とは思えない濃密な段取りだった.一度死にそうになると肝が据わって飯も喉を通るようになる.そこですかさずお墓参りだ.両親と舞夏,つまり一族だけの旅をする.ここで一夏は自分の生まれに関する逸話を聞くことになる.両親や祖母が通ってゆく道の途上に立つものとして舞夏は認識されて,そしてそれは自分もまた同じで.一貫性というのはおよそ安定と言い換えても差し支えないものであって,ここで再び暴走するかと思われたジンの力はただ静かに祖霊との交流を果たさせる.

僕の祖母の家には仏壇があって,そこには僕の知らない叔父さんが祭られている.流産だったのだと聞いている.そうした話を聞くときそこに僕には見えないものがあるということを強く感じる.あるいは小学校のころ亡くした僕の叔父と僕とが同じ食べ物の好き嫌いをしていて叔父と同じ理由で僕がそれを嫌っているということは単なる偶然でしかないのであるが,そのことが母に特別な感傷を与えてしまうということは僕にとってもそこにそういう不思議な一本の筋があるということを指し示すのである.このとき僕の直接の血縁でないその流れを体感することは難しいのであるが,僕に見えないものがそこにあるということは強く体感されるのである.

一夏が舞夏に対して感じている言葉に出来ない存在感は,きっとそういう類のものであろう.

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