健全な精神の緩やかな回帰

「この世からコーヒーがなくなってしまったら一体私はどうなるんだろう.」
梨木香歩の「エンジェル エンジェル エンジェル」は買おうかどうかずっと迷っていたのであるが,本屋で開いたページにたまたまこの一節があったため,そのままレジへ連れて行った.主人公はコーヒー中毒者で,一方私は今月からコーヒーを止めていて,まるで私がコーヒー断ちするのを待っていたかのようなタイミングでそのページは開かれたわけであるが,奇縁について語り過ぎている昨今,こういうことを話すのは怖いような気がする.
あらかじめ予想される話の筋があるとき,それに沿った出来事やそれとは逆に話の筋からずれた出来事は認知されやすくなるものである.コーヒーをやめることを考えていてコーヒー中毒者の告白が目に留まるのはそういう仕組みではある.奇縁とも呼ばれるそうした仕組みを無視し続けるといつかは地と図の区別をつけられない灰色の野に辿りつきそうであるし,逆に大切にしすぎると運命に縛られて動けなくなってしまいそうである.
「魔女は自分の直観を大事にしなければなりません.でも,その直観に取りつかれてはなりません.」(梨木香歩「西の魔女が死んだ」)
このからくさみたいに絡まったお話めいた暮らしとは少し距離を置かないと,怖いような景色ばかり見えてくる.

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