うた∽かたと鏡

さて,余談が過ぎたかもしれないが,うた∽かたの沙耶について雪の女王の話を借りて語るとすれば,彼女が口にするルールとはどちらかと言えば悪魔の鏡のほうのルールであって,ちゃんとしたルールがあるのか疑わしい,恣意性を感じさせるものである.正直,関わり合いになりたくない.しかし,そういう悪魔の鏡について僕は中学から高校にかけてたくさん考えたように思うのである.例えば人の幸福には総量があって,それが時代や感情によって配分されるものだと,ある時期,夜眠る前にはいつもそんなことを考えていた.それはある種のメーターとしてイメージされたが,何がどういう仕組みでそれが配分されるものだったかは今となってはもう思い出すことができない.あらゆることにいちいちルールがあるように感じていたのだろうが,そんなことをいちいち真に受けていたら頭がパンクしてしまう.一夏のいう「試されている」感覚もそんなわけのわからぬ写像たちに押しつぶされそうな時期に垣間見るルールであったように思う.

だから,物語は理知の鏡の助けを借りて収束する.一夏や誓唯にとって悪魔の鏡によってもたらされた事態は,人と(どちらかといえば)対称性を持った映し身である舞夏や繪委の存在があってはじめてなんとか手に負えるものとなる.(ついでに言うと繪委は家庭教師としては理系担当である.)彼らは彼らの出来る範囲において悪魔の鏡の事情を人間くさい言葉や連想の世界に落とし込んでくれる.このとき彼らと対峙する沙耶も,人を超越した存在というよりはアニメ版の雪の女王のように人間とは違う存在でありながら,よく語り,人間くさい小狡さを持っているため,全く取り付く島もないような存在ではない.歪んだりわやくちゃだったり,対称性を備えていたり,人を映しどこか人間くさい感じを受けるような鏡の諸相としてそれらはまとめられている.

まあそれはともかく,僕が一番気に入っているのは一夏の周りにある幼くて断片的で不完全なルールに満ちたごちゃごちゃした様子である.例えば,勾玉のペンダントは太極図の白と黒であり,幸運グッズとしてよくある類のものである.それは神精霊(ジン)と呼ばれる存在を呼び出すためのもので,舞夏の説明によると「あなたたちの言葉だと,神様とか,妖精とか,精霊,ってとこかな.」である.ようはなんでもありで,なんなのか良く判らない不思議な存在であり,夢見がちな女子中学生が好みそうな代物で,やっぱりそれは過剰で支え切れないような,無意味なルールの爆発なのだと思う.そんなところにルールはないなんて言わないで.「見られている」とか「試されている」とか言葉じゃ本当は足りなくて,何かあるんだけれど言葉にできないあの感じである.それは頭が整理された後には残らない,不完全で,安っぽくて,断片的な形でしか表すことの出来ないものであり,うた∽かたという作品にはそんな愛すべき混乱が満ちていた.


うた∽かた Summer Memory BOX 1 [DVD]

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もうじき発売される.買うべし.BOXで買うと高いが,バンダイチャンネルならば7話まで1000円程度で視聴できるのでこちらも.
http://www.b-ch.com/contents/utakata/
公式サイトでは,舞夏版の各話予告編が公開されており,そこでは「不思議な体験,させてあげるよっ」が決め台詞となっている.端的に過ぎるが普段は,不思議な体験,とまとめてしまって構わない話ではある.なにぶんこの手の話について語るときはこちらも物語のように語らざるを得ないので長くなる.

ただし,描かれていることを一つ一つ紐解いてゆくという点では,こちらのページが素晴らしい仕事をしておられる.必見.
http://utkt.hp.infoseek.co.jp/

12話まで見終わって,寂しくなったのでシュガーを見始めた.
OVAとして13話が制作されるとの報は素朴に嬉しい.

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