谷川流「電撃!!イージス5」

食生活の拙い話.衣食住のうち衣服は実家から持ってくればいい,住居は博士のものが残されている.服と家とはあることにして,子供所帯の足りてない感じはご飯をうまく作れないところにぜんぶ現れている.日々の食事っていうのは服や家よりも不慮のことに備えるのが難しいのだね.両親がすぐに帰ってこれなくなった夜,家でお腹空かして待ってた子供の頃の気持ちを思い出した.博士はどうやら思いがけない事故をきっかけとして遠い場所から帰るに帰れなくなってしまったような様子であって,彼ら服でも家でもなく食事にこそ不自由するっていうのは博士が帰って来るのを待つことに近いと思う.あの家に博士がいないことは何か穴でも空いているように感じるのだけど,もしも料理の上手な人があそこにいたとしたら,この穴は今ほどには意識されなかっただろう.

彼らに年相応の料理の腕しか期待出来ないところがお気に入りである.五人の中でいちばん上手いのはおそらく佐々巴.彼女の自己申告ではあろえや埜々香よりはよほど巧く作れます!ということであって,嘘をつく子ではなさそうだし中2中1よりも高1のほうが上手であるというのも妥当な線だからそれでいいと思った.逆瀬川秀明が博士の家にやって来てからというもの巴がご飯を作ろうとしなくなるのは,大学生のお兄さんに下手なお子様料理を見せられないっていう高校生らしい恥じらいだと思う.

掛川あろえについて.保健の先生の談話より.

ここに来たらよくあなたの話ばっかりしてるわよ(P.153)

後半よりも前半が気になる.ここに来たら? 秀明がやって来てからこれまであろえは倒れたことがなかったので,つまりあろえと埜々香は保健室へ話をしに集まってくる子たちなのだろう.校舎中に確たる居場所を求めがちであるのだね.

ハルジオンもセイタカアワダチソウも小学校の通学路でよく見かけたものだった.ハルジオンは音で記憶していたので春紫苑と書くのだと初めて知った.逆さまな話であるが,おかげで見たことのない紫苑の花をうまく想像することが出来るようになった.よく似た花にヒメジョンがあるが,僕は区別をつけられない.名前ですらうっかり交ざってハルジョンになる.セイタカさんのほうは当時その花粉が体に悪いと言われていたので,自分の背丈よりも高く群れをなしている空き地の前を,いつもこわごわ息を止めながら早足したものである.

セイタカの空き地はいつしか駐車場になり,家が建ち,今ではもうそこになにがあるのか思い浮かべることが出来なくなっている.

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