D.C.

子供たちが前作のさくらと純一のことを,さくらさん,純一さんと呼んでいる折り目の正しさが着地点でありまたスタート.

かの殺風景な,生活感のなかったさくらの家に男の子が住んでいたり子供たちがしょっちゅう上がり込んでるという時点で,前作のバトンは安心できる形で受け継がれている.また,子供たちのほうは彼らが欠けることで大きく揺らされて,何か始まってゆくのだろう.

さくら「ただいま〜.なんか楽しそうだね〜」
がやがややってると,玄関の方からさくらさんの声が聞こえてきた.
音姫「あ,さくらさんお帰りなさい」
さくら「ふぃ〜,お腹すいた〜」
席について一息つく.
音姫「さくらさんの分,用意しますね」
すると,すぐに音姉が席を立った.
さくら「うぅ〜,いつもすまないね……げほげほ」
音姫「それは言わない約束だよ,おとっつぁん」

このやりとりの何がよいのかはちょっと前作知らないと判らないかもしれない.あの部屋になんとこたつがあって,その周りでの会話が行われるのである.またさくらの好きな時代劇も絡めてある.

義之「静かですね」
さくら「うん.そうだね」
さくらさんとふたりっきりでの夕食.
今日は音姉も由夢も来なかった.
月に何回かはふたりが来ない夜がある.
そもそもふたりは朝倉家の住人で,ここは芳乃家なんだからそれが普通なんだけど.
でも,なんだか妙に静かに感じてしまうのも事実だった.

それはそうなんだけど,朝倉家に対して芳乃家というのが在るってことが,それだけで嬉しいのね.
それでまたこの義之くんを芳乃家に住まわせたのは純一おじいちゃんでね.

芳乃家は相変わらずハッピーな日常だった.

義之くんはこの芳乃家を今度は雪村杏のところへ持ってゆくのである.
彼女も実は,おばあちゃんから引き継いだ,だだっぴろい,生活感のない家に住んでいたのだということに,驚かされるのであって.

一度見たことを忘れることのできない雪村流暗記術の弱点も,さくらの魔法に対するまんぼうと同じ.

義之「あ……」
杏「どうしたの?」
義之「いや,杏に演技指導してもらうつもりだったのに,学校に着いちゃったよ……」
杏「そういえばそうね.すっかり忘れてた……」
義之「あはははは……」
杏の言葉を聞いて俺は笑った.
杏「どうしたの?」
義之「いや,杏だって忘れることあるじゃないかって思ってさ……」
杏「あ……」
杏は,ようやく気付いたらしく,口元を手で押さえた.

例によって枯れない桜の樹が悪さをしているようであるから,そこにはまんぼうのような弱点がなくてはね,やるせない.

極端な魔法,例えば,自分の夢が全て叶ってしまうのだとしたら,自分の好きなあの人が自分のことを好きでいてくれるのは.

さくら「それは誰の気持ち?」
純一「まんぼう」
さくら「うにゃ!?」
純一「お前は俺が変なこと言うことまで自分の夢だなんていうのか?」

僕が好きなこのまんぼうのくだり,決め手ではあるけど地味なところなのによく拾ってきてくれたなぁと思う.

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