そして明日の世界よりーー

外は大雪.マンションの廊下にまで雪が積もってる.

昼間は京都駅の天井の高い構内にも雪が舞っていて,どこから入ってくるのかと思ったら,あの大階段から吹き下ろしてくるのだ.

これは知らなかった.雪の日に京都駅へ行って良かった.

人前で話す機会に緊張したり,メールの返事が来たり来なかったりでだいぶ疲れて,とっておきの一本を開封.

エンディングボーカル集をあらかじめ聴いていた.

eufoniusの「散歩道」がおそろしく切ないので,はじめから夕陽を追いかける予定で.

水月陵にAmazing Graceを唄わせるのはもったいないと思っていた.いかにもありそうやん? あとやっぱオリジナル曲聴きたかったし.

夕陽とは,散歩道,に描かれるような関係なのだと思っていた.そうであるには違いないのだけど,しかしこれ読み始めてみるとじつはAmazing Graceがテーマ曲で,夕陽がしじゅう口ずさんでるのね.

安易に水月陵に唄わせたと思っていた.だけど,もっと重いからこそだったのだなぁ.ごめん.

あれこれ考えたけど,歌詞の意味を知っていたら,この終わりしかないというものだった.

Amazing GraceのいろんなアレンジバージョンがBGMとして使われるんだけど,ちょっと可笑しいのが夕陽がお風呂に闖入してくる場面で,軽快なアレンジのこの曲が流れるところ.わはは,台無しだ.

誤解といえば,植田亮の絵についてもそうだった.描線にだいぶ見応えがある.一通りぐるっと目でなぞってしまう.

健速さんは,やはり当代一の書き手か.上手い人というのはいくらでもいるけど,エネルギー効率というか.かけた熱量がそのままぜんぶおさまっているような圧力で,こういうのはその人の時代として区切られるものだと思うので,あえて当代という言葉を捧げます.

星空にかけて水道の話とか,レジの780円のところとか,細かい修辞の面白さも目立ったけど,せっかく何作も読んできたのでもうちょっと大きなところについて.

うん,あるがままのこと,あるいはあるがままのことがあるということをまるで信用してないのね.ぜんぶ誰かが考える言葉で解釈してゆく.それでいて読めるようになってるのは解釈が一呼吸おいた後に述べられるからで,その一呼吸の間だけでも僕らが手放しで,いま何が起こってるのかということを見ることができるからだね.一呼吸というのはひとつ先のカットとか,あんまり遠くならない場所.

あとずっと変わらない癖は,後に起こる重い出来事や言葉は先に予告して回るところ.地球が滅びてしまうニュースも,女の子の身を切るような言葉も,過去形で予告された後に,詳しく回想される.こなかなの時はそれが語り手である主人公の僕らに対する優しさだと思ったけど,むしろ,起こることよりもそれに対する解釈が先立ってしまうのだろう.

つまり,その時間差には幅があって,解釈が,起こることよりも前であることもあれば,その一呼吸あとに来ることもあるという独特のリズムになっている.くどいような丁寧さが欠点でなく,生きてくる.

そういうふうに,事故で亡くなったひとりの母親と,残されたふた組の家族,6人の気持ちを,がんちゃんは追跡することになる.だけど,そういうのは背負いきれないから,ひとりではうまくはゆかないね.

そしてすっかり抜け落ちていた,じぶんの気持ちと.

ああ。ずっといてくれ。
そしてずっと守ってくれ。
俺を傷つけようとする全てから

大村いろはを思い出さなくもないけど,素直にAmazing Graceからの想起でいいと思いなおした.

ただ,僕が素で訳すと,どうも普通の訳とは違ってしまっていて参った.

The Lord has promis’d good to me,
His word my hope secures;
He will my shield and portion be,
As long as life endures.

Yes, when this flesh and heart shall fail,
And mortal life shall cease;
I shall possess, within the veil,
A life of joy and peace.

以下,私訳.

あなたは約束してくれた.素敵なこと,
その言葉はわたしの希望.確かなこと.
あなたはわたしの盾,わたしの処方,
この命がつづく限り.

そう,この身と心が果てるとき,
死すべき命を終えるときも.
その盾のなかで,わたしは持っているのだろう,
喜びと安らぎの日々を.

よく知らなかったので,キリスト教とは関係なしに読んだ.
RPG脳なのでportionが薬としか読めなかったけど,そもそもスペルが違いますね(potion).しかし,shieldと対になる言葉だからつい,ね.
veilを盾と読むのはとても限られた場合だけど(肩盾),これも前段のshieldに引きずられたのだわ.
や,veilのくだりで僕としては断然盛り上がったのだけど,ありえないな,これは.

朝を迎えて,東山の大文字が白く染め上げられている.
前回の送り火では強風のため点が増えて「太」文字になってしまった,その傷跡もまだ白く残されている.

ベランダから京都駅のほうを見たら,雲がすごい速さで東へ流れていた.そして明日の世界より,の背景アニメーションと同じだと思った.

季節は夏.しかし,冬.

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