ToHeart2 AnotherDays

郁乃.

トイレや下の話のあけすけなところが,人の気持ちに触れてく上で大切なことだと思ってる.Active時代からの枕流の持ち味あふれる,勇ましい,いや普通の女の子の話.人生の大半を病室で過ごしてきた女の子に襲いかかる生々しい感覚たちに,彼女は車椅子探偵として言葉で臨むのだ.しかし,理にも情にも勝ちすぎることはない,というところにくだんの持ち味が効いてくるのだと思う.

車椅子探偵? それって部屋から動けるじゃねーか! というのがポイント.

筆の運びとしては鎖とTH2で左右に振れながら堂々たる王の道に辿り着いたのかな.郁乃の独り語りを軸に,こちらが文章に気持ちを預けていれば,こぼれそうなところもちゃんと拾い上げてくれる,という書き方.たとえば,恋を諦めたあとの気持ちのやり場.由真とのつまんない会話で気持ちをそらしつつ,またもう一度失ったものに立ち戻って,以前とはもう違った様子の病棟のロビー,さらにその先へと時間をかけて導く.

はじめに名前を入力させるので,妙だなと思った.郁乃と貴明との話だと思っていたし,実際始めてみたところでもそう.

入力させた名前の使いどころは,伝統的にはじめか最後と決まってます.lainならば最後に音声合成で読み上げ.「北へ。」では冒頭で,空港でよく見かける「歓迎○○様」というパネルの絵の中に自分の名前が入っていてぎょっとするのである.郁乃の話での使いどころについては,当時に比べると絵と文字の馴染みようも見せ方の工夫もよくなってるなと思った.

自分の過去の入院体験を思うと,なんつか嬉しいねこれは.あり得ないけど,しかし,同じ入院病棟に住む年頃の異性のことは,数が少ないからそれなりに意識するものであって.ましてや,どうよ.

あとは自作チャットシステムを介した彼らのやりとりが良いです.システムを作っているメンバの意図がメンバ間の会話のやり方や内容を良くも悪くも変えてゆく.システムをデザインすることは彼のメッセージであり,会話に参与することなのよ.それはたぶん,特徴的ではあるけど特権的ではなく,ひとりの参加者として.

名前については,勇敢な生き様ゆえに今後いくのんではなく郁乃と呼ばせてもらうことにしたのです.

ちなみに雪村杏をゲーム内で呼ばれてるように杏と呼ばないのは単に照れるからです.ケーキの予約で名前を言わなきゃならんかったときには恥ずかしくて死ぬかと思った.それ散るの雪村と紛らわしいけど,僕内部ではどちらも雪村と呼ぶことに困ってないので.

ついき.迷ったのだけど,助平心で,写真が郵送されるほうの話も読んだ.

小牧郁乃さんにはバーカ,バーカといってあげたいが,馬鹿なくらいでいいのかもしれない.
その事実は墓場までもってゆくのだろうし,彼女はそれができる人だから.

あと上のあけすけ云々はこっちのほうがもちろん効いてくる.

ついき2

子供の頃の夢は,色褪せない落書きで.それは未来へつながるのかもしれないし,だけど不良債権のようなものかもしれないよ.

読み筋,ということで去年の3月10日に書いた文章より.

ToHeart2の小牧さんについては子供のころにしてもらえなかった”たかいたかい”を高校生になってもまだどうしてもしてほしくって,男の子にお願いするわけであるが,やはり無理があって,その年頃で,しかも好きな男の子に脇腹ずっとつかまれていてなんともないわけはなくて,後でたまらずトイレへ駆け込む艶笑噺となる.身体ってどういうものかねというところの繕わぬ面白さはさすが枕流だと思った.

下品さにおいて幸ある点で好きな書き手は,酒見賢一あるいは山本弘,そして枕流と続く.例によって「ぬしらは馬鹿か,」とツッコミながら楽しく読んだのであった.ていうか身体の発達具合を考えずにやらかしてしまうあたり,まんま後宮小説のそれと同じだ.

小さかった頃のこと,僕の今の歳からするとそれは中学生や高校生,大学生だっていいんだけど,ある年頃においてやっておきたかったこと,済ましておきたかったことというのはあるもので.それを今やろうとするとどうしたってこの歳の自分とは釣り合わなくて無理が出てくる.トイレへ駆け込む小牧姉もまさにバーカ,バーカなのだけど,取り返しのつかないものを求めてしまうときの切なさがあるじゃない.小牧姉の場合は幼い日の親との触れあいとか,自然な(!)異性とのやりとりとか,そういうのを取り戻そうとしても,失笑を買うような結果に繋がってしまうのだけど,だけどさぁ,願ってしまうじゃないの.

この姉がトイレへ駆け込んだ過去は郁乃の話でも参照されていて,笑うところとして大切な笑いどころなのだと思う.小牧姉の話は他には印象に残るものがなかったので,貴明との馴れ初めも桜を探して回った結末も郁乃の話を読み進めながらようやく思い出したのだった.

郁乃という人も姉に対する取り返しのつかない過去や長い入院による空白を抱えていて,その窮まったところに貴明と一方的に関係することになる,で大いに自己嫌悪.姉妹のね,どうしょうもなく似てるところとやっぱり違ってる生き様がうねうねしていて魅力的だったよ.

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