人と長時間話すと胸の内が波立って仕方ないので,文字を読んでやすませる.
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1995/01/01
- メディア: 文庫
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SNOWでは彼方さんが白桜と時代を超えて入れ替わりながら話を進めてゆくのが見せ場である.時を隔てた人物が抱えるはずのギャップは闖入先の文脈に巻き込まれてしぜん筋道が立ち,本人のとぼけた性格もそれを気に病まない.白桜たちの行き詰まった事態は彼方さんが交じることで可笑しいほうへずれてゆく.
上総の盗賊の頭,小楯は奈良時代から現代へ.いったりきたり唐突なスリップを繰り返すのだけど,やはり闖入先の文脈にそのまま交じってしまう.本人も自然にそれを受け入れている.彼方さんもそうであるが,とぼけた,というか,周囲とのやりとりが希薄というか,よく言えば我が道をゆく人が往来することで,歴史とか現代の出来事にどういうずれが起こるのかしら?ってとこ.まだ読んでる途中.1/4くらい.
姫のみかど,こと孝謙天皇がたいへんラブいですよ.閨は真紅に燃えた.
読んだ.
間違い間違い.ずれとか起こるわけないじゃん.ローカルな場を一歩離れれば,そこにじぶんのやったことが影響するかしないかなんてことは,よくわかんなくなるのである.傍観者を気取らないのだとすれば,よく判らない場所にいてよく判らないことに巻き込まれている感だけが残る.
なお,姫のみかどの恋する振る舞いがラブいのはすべて小楯がそうと考えたものであるようにしか見えない.観念の姫様と,身辺でぺたぺたと触ってくる七瀬と,処女懐胎して小楯の子をなす春日の森の神鹿と,天下三分のなか自らは仙骨を得んと蓬莱山へ赴くたぁどういう了見だい.小楯は周りから愛されまくっとる人なので傍から見るに別れはぜいたくであるが,腹で哲学する大造と同じく傍の目を拒んだ小楯である.大学の壁に意味のないビラを貼りまくらねばならなかった当時の気分を思い出せば,それと同じものとして納得できなくもない.
七瀬ラブ.
にしても裏表紙のあおり文は酷い.小楯が世間の人にあえては触らず,その傍をかすめてゆくだけ,というのは外せない筋でしょ(僕はそこに妙味を得なかったにせよ).鉄槌とかないです.一方,エレンディラを見て六道遊行を思い出した,てな評をどこかで見たけど,最後の最後まで読んで振り返ってみると確かにそんな感じがした.どちらかといえばこちらを採りたい.