フィリパ・ピアス「真夜中のパーティー」

短編集,表題作.真夜中のリビングに子供たちだけの時間が偶然生まれる.しかしその夜のパーティー自体は子供たちが知らず巻き込まれている感じの不思議さを帯びない.それは巻き込まれるというよりも自覚的な余興として,上の姉弟らは小さな末っ子ウィルソンに不思議な景色を演じて見せる.余興ってのはウィルソンが朝になってから母親に夢みたいな出来事を語ったとき,それを母親が信じるかどうかを見るっていうね.ウィルソンだけはおミソなので作り物の夢に巻き込まれてる.彼はまだ小さいから他の姉弟とよりも両親と同じ時間のほうを生きているのだろう.

真夜中の時間とその前後にある父と母の眠り始めた夜,ふたりの目覚める朝とを繋ぐちょっとだけいつも通りでない手がかりがよい.チャーリーが自分の耳の中にハエが入ったと思って,眠る両親のところへ訴えにいったことをきっかけに真夜中のパーティーは始まる.あれ,入ったような気持ちになるんだよなぁ,もぞもぞと.そして,無理矢理起こされたウィルソンはパーティーでは半分眠って夢見たようになっていて,朝,寝過ごしている姉弟をよそに自分だけは起きて父母と朝食をともにする.チャーリーの胸にいっとき迫った不安とウィルソンの夢,そんな小さくてもやもやとした気持ちが,真夜中の時間があった手がかりとして残される.

2000年に書かれた訳者あとがきによると,1999年のクリスマス頃のフィリパ・ピアスはおばあちゃん業に忙しかったという.80歳近くのことである.「トムは真夜中の庭で」が40歳前の作品で,ついに正真正銘のおばあちゃんになられたのだなぁ,と思っていたら,2006年のクリスマス前にお亡くなりになっていた.勝手な想像であるが,どこかまだ不思議な時間の中に暮らしておられるような気がしてならない.

真夜中のパーティー (岩波少年文庫 (042))

真夜中のパーティー (岩波少年文庫 (042))

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